021.奇跡
「G-collection」
021.奇跡
好きな言葉は何ですかと問われ「奇跡」なんて答える人のこと、あたし、正直バカにしてた。
だって「奇跡」なんて、単なる綺麗ごとだとしか思えなかったから。
いかにも「夢のある純粋なる女の子」を演じているみたいな気がして、ちょっと敬遠してた。
それを払拭したのは十六の時だった。
あれがどこまで本当なのかと考えると、人によっては「夢よ夢」で済ませるだろうし、そのテの話題が好きな人だってきっと全てを信じてはくれないだろう。
あたしだって他人からそれを体験談として聞いたとしたら、
「で、オチはなんなの?」
ってきっと訊いてる。
つまりはそのくらいに荒唐無稽であり、突拍子もないことであり、非現実であり、あの子ちょっと頭おかしいんじゃないの? ってひそひそと囁かれることであるのだけど、あたしはそれを夢だとも幻だとも妄想だともハンドパワーだとも思ってない。
あたしは間違いなく「異世界」に行った。
そこであまり異世界っぽくない料理を食べて、歩いてちょっとした冒険をした。
背中に翼が生えた猫がいたし、その猫は関西弁でしゃべってた。
やたら日本人にも会ったし、他の世界から来たって人もいた。
どうやら世界というのはひとつきりじゃないらしい──と、あたしは宇宙の神秘に触れたのだ。
元の世界に帰った暁には、この真理を世間に──ひいては世界に知らしめよう。
世界はひとつじゃない。
空間は裏表。
虚空の抜け道。
この辺りを解明出来たら、あたしは偉人伝に名を連ねるでしょうね。
「はるかの定理」
どうでもいいけど、このテの学名ってなんでその発見者の人名なのかしらね。日本人だとすんごく間抜けに聞こえるわ。
ところが物理なんて教科を廃止してほしい派のあたしに、そんな高度なことが出来るわけもなく、どこかの誰かが経験をすることを日本の片隅で願っている。
話が逸れたけど、
あたしはその世界で学んだことは、奇跡は起こすものじゃなく、そこにあるものだということだ。
出会った海の男が言っていたことは、あたしの胸に今もある。
自分という存在が此処にある奇跡。
自分が生きてきた軌跡。
キセキは探すものじゃない。
自分が持っている。
誰の手にも奇石はある。
奇跡とは、誰も上にも降るものなのだ。
Gコレ後日談。これは、本編と次の話の間のはるか。
奇跡と聞いて、これしか浮かばなかったです。