005.交易都市
「G-colloection」
005.交易都市
こういうのを称して「貿易」っていうのかしらね。
港に陸揚げされている海の幸やら、他の国(かどうか定かではないが)から運ばれてきたらしい品物やら。船から荷下ろしされている様を見ながら、少女は考えていた。
港町・サパス
いろいろな情報を含めた、様々な「もの」が飛び交う──そんな町。
貿易なんて言葉、社会の教科書でしか見たことがない。
大体、実際にどういった手順を踏んで行われているのか、正しく理解をしている人間なんて、そうそういないんじゃないんだろうか。
直接関わらなければ、わからない。
わからなくても、輸入品は手に入るのだ。
「何がそんなに楽しくて見てるんですか?」
「へ?」
いつの間にか後ろに立っていた旅路の仲間が問い掛ける。
「異世界にはこういった習わしがないんですか?」
「ないわけじゃなくて、実際目で見たことがないだけよ」
「目で見ないのならば、何で見るんですか?」
触覚でも生えているんですか? と、少女の頭を検分する青年を睨みつけ、
「だから人を化け物扱いするなってーのよ」
清水はるかは憮然と口を尖らせた。
「なんか買うんか、ハルカ」
「ん〜、どうしよっか……」
先日、ちょっとした騒動があった際「怪鳥を倒した勇者様」の栄光を戴いてしまったはるかは、優待割引証を片手に通りを歩いている。肩の辺りを平行する翼猫──ファジーと、何をするでもなく歩いているのは他でもない。旅立ちの準備のためだった。
ここより少しばかり離れた場所で眠っているという「海賊の宝」なるものを捜しにいった彼女達だが、あっさりと空振りに終わり、落ち込むのも束の間、次なる目的を見出し動くことにしている。
仲間の二人とは別行動をとり、女同士のショッピングへと繰り出してはみたものの、ついさっき果汁水を買ったっきりだ。
欲しい物。
なんだろう?
ふと考えてしまう。
普段ならば、その時によって変わるものの何かは思いつく。
例えば新しい靴が欲しいとか、おもしろいと評判の本、好きな歌手のアルバム、雑誌に紹介されたらしいケーキ屋さんのシュークリーム。
(いくら何でもあるって言ったって、世界が違うんだもの。この世界で何が欲しいのかなんて、わかんないわよ)
すぐに還るめどがあるのならば、記念品として買おうという気にもなるけれど、今必要なのは「記念」ではなく、生活必需品なのだ。
「よう、異世界人のお嬢さん」
「あ、こんにちは」
声をかけられて振り向いた先にいるのは、この町の情報屋でもあるサン。大柄な身体は人込みにも負けず、まっすぐにはるか達の方へと歩いてきた。
「買い物かい?」
「……まあ、そんなとこです」
「あいつらは?」
「向こうは向こうで、買い物です」
横に並んで歩きながら、通りを進んでいく。
女の子なら、この先にある店がいいんじゃないかと、サンが案内してくれることになったのだ。
「何かの足しになるってわけじゃあないだろうけど、ひとついいこと教えておいてやるよ」
「いいこと?」
「他にも異世界人に遇ったことがあるって言っただろう?」
「ええ」
「なんでもな、その異世界人同士で情報交換をしあってるらし」
「情報交換?」
「困ったことやらなんかは、同じ環境の人の方がよくわかるってもんだろう?」
同じ地に住んでいるというわけではないけれど、定期的に連絡を取り合ったりする同盟組織のようなものがあるのだと、サンは言う。
「だからさ、お嬢さんもさ、どこかで会うかもしれないよ、そのお仲間ってやつにさ」
「仲間……か」
「ここなんかもそうだけど、人の行き交いが多いような都市なら、きっといるんじゃないかね? 交易ってのはなにも「物品」だけをいうんじゃないからな」
人が集まれば、そこに情報網が生まれる。
「がんばりな」
「ありがとう、心にとめとく」
「よろしく頼むわな」
「…………?」
「あの二人、まあいい奴だから」
「そうですかね?」
しかめっ面の少女を笑って、サンは手を振った。
「そんくらいでいいんだよ」
「……なにがですか?」
「いいからいいから」
笑うだけで、そこから言葉はなくて、
なんだかうまくはぐらかされてしまった気がして、はるかは肩をすくめた。
これまた「どこが交易都市やねん」
そして内容がない。これの目的はあれかしら?「異世界出身者同盟組織」の存在を、はるかが耳にするっていう、それだけのこと。後々、この名称が本編にも登場するでしょう。その前フリみたいなもの。
久々に書いたサン。なんか、キャラちゃうし。微妙にキャプテン化してるし。でも、サンのんが陽気だよね。キャプテン=ブラックは商人ですから、それなりに腹黒です。