061.出発前夜
「G-colloection」
061.出発前夜
「おっし、準備万端!」
膨れ上がったカバンをポンと一叩きして、息を吐く。
旅行に行くときの準備って、楽しいようでそれでいて「なにか忘れてるじゃないか」っていう不安にも駆られてしまう。
忘れ物なんていったって、どうせたいしたものじゃないし、第一別に修学旅行ってわけじゃないだから、忘れて困るものなんてあんまりない気もする。必要なら借りるなり買うなりすればいいんだもの。
そう。いざって時は、財布さえあればなんとかなるものよ。
いつもより三割増しってかんじの財布の中身。
その大半は今回の旅行費用としてもらったものだけど、なんだかリッチになった気分。といっても、
「お土産、期待してるから」などと、にっこり笑顔で手渡されたお金だから、あまり無駄にも出来ないところではあるけれど……
ぐるりと見渡してみた、六畳の部屋。
明日からしばらくこの部屋から離れるのだと思うと、妙な気持ち。
寂しいなんて少し大げさかもしれないけど、でもやっぱり寝る場所が変わるっていうことが身体に及ぼす影響はあると思う。寝るって行為は、人をもっとも無防備にする瞬間でもあるわけだし。
明日着ていく服も準備済みだ。
なんていったところで、行く場所が「海の家」だからおしゃれするわけじゃないんだけどさ。
人によってはそりゃあ気合に入り方も違うのかもしれないけど、あたしは別にナンパされたいわけじゃないし、どっちかというと御免こうむりたいところ。
着慣れたジーンズと、おろしたてのTシャツなんて味気ないのかもしれないけど、どうせほとんど水着状態なんだから関係ないわよね。
遮光カーテンを引いて、窓から顔を出す。
ご近所の屋根と、その間から生えている電信柱、それを繋ぐ電線。街灯が弱々しい明かりを放っている。
この見慣れた風景もしばしの別れ。
うー、なんでこんなに感傷的になってんだろう、あたし。
なんかヘンなの。
旅行ってことで、やっぱり気持ちが落ち着かないのかもしれないな。
夕飯時に見せた、前に座る夫婦の少し心配気な顔を思い出す。
全然大丈夫、気にしてないよって態度とってはおいたけど、見透かされたかな?
「はるか、明日早いんでしょ? さっさと寝ないと起きられないわよ」
階段の下から声がかかる。
「はーい」
思考を、気持ちを振り払って、大声でそう返して電気を消す。
寝転がって目覚ましをセットしてから、あたしは眠りについた。
あしたは晴れるといいな。
青い、青い空の下で。
出発前夜。もうこれっきゃねえよな。
そんなわけでGコレ0話、もしくはエピソード1(古い/笑)