僕がマース頭痛に悩まされている時、
母親がやたら興奮した様子で部屋の扉を、ノックを素っ飛ばして開け放った。
どうやら、広報映像ですごいことを言っているらしい。
腕を引き、居間に座らされる。画面では、あの偉い人がしゃべっていた。
彼曰く「我々以外にも、星へ向かう船を発見したのだ」という。
僕はちょっとだけ誇らしい気分とともに、安堵感を得た。
やっぱり、いた。
夢じゃなくって、本物だったんだ。
どうやって彼らの存在を知ったんだろうと不思議に思っていると、今度は学者風のおじさんが興奮気味に発言した。
微弱ながら、声をひろったのだと。
船は、常にテラへ向けて信号を送っている。それが返ってくることで目的地への距離を測り、航路を決めてきた。そのために、どんな信号でも感知できる大きな網を広げていたところ、なにかをひろったのだと、そう言った。
わかるような、わからないような。
異様に興奮して、さらに専門用語の嵐だったりで、僕には理解不能だった。ちらりと隣を見ると、母親の目も「なに言ってんの、このハゲ」といっていた。逆方向を見上げてみる。父親の目は、こちらはどう見ても、アシスタントのお姉さんに注がれている。
話を理解している様子はない。
よかった。
この読解力の無さは、きっと遺伝だ。
もういいよね、なにかわかったらまた広報から文書が回るし、学校でも言うだろうしさ――
そう言って、スイッチを切ろうとした時、
「なお、この未知の声は、ナミオラニノネインのスヴェトラーナ=リオラレインと名乗り、声の主は、船内における長の孫娘であることがわかっております。彼女を含め、他十数名が、我々との窓口として通信を交わすことになっており、また彼女たちの種族は、人の思念を通信へ乗せて運ぶという、あまり聞いたとこのない手段を用いており、つまり――」
途切れなくしゃべり続けるハゲ(学者さんだ)の声を、僕は呆然と聞いていた。
スイッチを押そうとした手は、空に浮いたまま。
僕の両隣では、両親が呑気に、親バカとも取れそうな会話を繰り広げる。
「なに言ってんのよ、思念で会話するなんて、珍しくもなんともないじゃない。ねえ、健太」
「そうだよな、健太はなんてったってその道のプロだしな」
「でも、素敵ねー。一体、どんな人達なのか楽しみだわー」
「向こうの船と、こっち。どのくらい離れてるのかな?」
僕は割り込んで訊ねた。
父親は顎に手を当て、空を仰いで眉を寄せる。
「そうさなー。声が届くぐらいだ、そこまで大きく隔たりはないだろうよ。こっちと、あっちと。どっちが先行してるのかはわからんが、生きている間には出会えるんじゃないか?」
「そうだよね!」
大声を上げた僕を、両親は不思議そうに見る。
そして、なにやら納得したように笑った。
同じように「誰かの声をひろう」相手がいることを喜んでいる。
そんな風に誤解しているような気もするけど、今はそれでいい。
君の船が「テラ」へ向かうのと同じように、
僕のいる船も、まだ見ぬ母星を求めて宇宙の海をゆく。
だから。
いつかあの星でもう一度。
その時が、僕と君のファーストコンタクト。
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