「でも、本当にできるとは思わなかったわ」
「なにがさ」
「精神感応。私、いつも落ちこぼれだから、こんな高度なことができるだなんて思ってなかったの。だけど私にもちゃんとできた。これってばすごいよね!」
「…………」
「うん、すごいすごい。見てらっしゃい、私だってやればできるんだってこと、見せてやるんだからっ」
一人で自己完結して、やたら喜んでいる。こんな風にはしゃいだ声は初めて聞いたかもしれない。
なんだかわかんないけど、僕まで嬉しくなってくる。
なんでだろう?
頭に入っていることで気持ちの高ぶりとかも共有しちゃうのかもしれない。
「これで私もテレパシーね。ありがとう、ケンタのおかげだわ」
「――だから、テレパシーは現象であって、人称じゃないんだってばさ」
だけど、ラーナがあんまりにも楽しそうだったから、僕は言うのをやめた。
まあ、いいか。
例えばこうして会話をしているのは、ある意味で「テレパシー」と言えなくもない。
ラーナの手がなにかに当たって、それを倒す。
気づいて手に取ったそれは、絵だった。
それはそれでいいんだけど、そこに描かれているものが問題だった。
「ドラゴン?」
絵本や映像とかで見かける、いわゆる「ドラゴン」
薄い皮膜の大きな翼を広げ、巨大な体躯が大空を駆ける。
剥き出しの鋭い犬歯はなにもかもを引き裂き、大きな口からはブレスを吐く。
そんな言葉が浮かんできそうな風体。
サイズは人の顔ほどだから、ミニドラゴンか。
それが女の子の胸に抱かれている。
「ああ、これがマースよ。紹介したでしょ?」
「はあ?」
じゃあ、あの肉食動物の危険な咆哮みたいな唸り声をあげていたのが、あのマースくんとやらがこれだったのか。
僕の頭にはドラゴンがいたのかよ。
ドラゴンなんて動物が「ペット」になってることよりも、ドラゴンが脳内を焼き尽くす様を想像して僕は震えた。
そして気づく。
これがマースくんで、ペット。
ってことは──
「ねえ、じゃあこの女の子が、君?」
一緒に描かれているのは、髪の長い女の子。プラチナブロンドの髪と色の白い肌。
ひだひだの服を着ていて、場所はきっとこの部屋なんだろう。背後が真っ白で。そのせいでやたら淡白に見えるんだけど、そんな中で海の色みたいな青い瞳が際立って印象的に映えてる。
その絵が慌てて下を向いた。焦ったようにラーナが言う。
「ちっちゃい頃よ。こんなの見ないでよ、恥ずかしいわね」
「見ないでよ──って、見せたのそっちじゃんか」
「うるさいっ。勝手に見ないで」
「見たくて見てないよ」
「なにそれ、責任転嫁するのっ。男のくせにヤなかんじ」
テレパシーなんて最悪だわーと、さっきまで喜んでいたくせに急に怒り出した。
まったく、女の子ってなんだってこうコロコロと変わっちゃうんだろうなあ。
その時、部屋が揺れた。
地震?
ああ、そんなわけないか。じゃあ、この船が揺れたってことかな。壁の一部分が仄かに赤く点滅を繰り返す。
なんだろう、ひょっとして「危険」ってことなのかな。
隕石にぶつかったとか、エンジントラブルとか。
「ねえ、なにかあったの? 緊急事態?」
「──ううん、違う。むしろその逆だわ」
「逆?」
「そう、見つかったのよ。テラが」
「テラ……?」
「私達の新しい星よ。ずっとずっと、どこかにあると言われてた星を、私達は目指してて。やっと軌道に乗った。これできっと辿り着ける」
「……それは、何年かかるの?」
「知らない。でも、時間なんて関係ないわ」
ラーナが壁の一部に触れる。
すると一面がスクリーンになったかのように光り、大きな蒼い星が映し出される。
天井からの光が反射して白くなり、まるで鏡のようにこちらを映す。蒼い星をバックに、それに負けないくらいの青い瞳の少女が見えた。
さっき見た絵よりややほっそりした身体つきで、幼さから一歩抜け出したかんじの女の子。すとんとした服を着用しているから身体のラインがよくわかるけど、うん、太くもなく細くもなく。グラマーじゃないけど、それでいいんじゃないだろうか。胸なんてデカけりゃいいってもんじゃないのよと、幼少の頃から言い聞かされて育っているので、僕はあんまり巨乳好きってわけじゃないんだ。
黙々と考えていたことが伝わったのだろうか。
目の前に映っているラーナの顔が心なしか引きつっているような気がする。
うちの母親が癇癪をおこして、「もう、離婚だわっ!」と叫び出す、マジ切れしそうな五秒前ってかんじだった。
五、四、三、ニ、一……
「信じらんない、人の顔勝手に見ないでよー!」
「だから、理不尽だってっ!」
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